ふくしま尾瀬登山道整備ツアーメインイメージ

ふくしま尾瀬
登山道整備ツアーレポート

ふくしま尾瀬の登山道を守る「ふくしま尾瀬 登山道整備ツアー」を令和7年(2025年)9月22日(月)から24日(水)と、10月7日(火)から9日(木)2回にわたり開催しました。参加したのは初心者を含む19名で、倒木や土砂を活用した人力による整備に挑みました。ガイドの解説や行政・地域との協働も加わり、自然と登山道のこれからを考える貴重な3日間となりました。

参加者は初心者多数

大江湿原を尾瀬ガイドの館山さんと歩く 色づき始めた大江湿原を尾瀬ガイドの館山さんと歩く

福島県檜枝岐村側の尾瀬の玄関口、御池に集合し、シャトルバスで沼山峠登山口に移動して入山。見晴の山小屋に2泊し、下山は、三条の滝を経由し、裏燧林道を通って御池まで下山する、東北以北で最高峰の燧ヶ岳をぐるっと一周するコースです。中日の一日を登山道整備に充て、入山から見晴の山小屋まで、また見晴から下山するまでの行程は、尾瀬ガイドとともに、福島県側の尾瀬の魅力や、山の自然、歴史を知る時間になりました。

大江湿原を尾瀬ガイドの館山さんと歩く 色づき始めた大江湿原を尾瀬ガイドの館山さんと歩く

参加者は、福島県内や、関東甲信越地域、遠くは関西からも駆けつけた、2回で合計19名の方々。中には、尾瀬に初めてきた、普段は日帰り登山ばかりなので山小屋には初めて泊まる、という方も。登山道整備に関しても、経験がある方は2名のみで、ほかは初めての方ばかり。チェーンソーなどの機械を使わず、ノコギリ、ショベル、バール、カケヤなどを使った人力での作業で、どこまで登山道整備ができるでしょうか…。

見晴新道の作業現場 見晴新道の作業現場にて小林さんの説明を受ける

整備対象の場所と課題

見晴新道の作業現場 見晴新道の作業現場にて小林さんの説明を受ける

尾瀬沼から見晴へ通じる登山道と、燧ヶ岳に通じる「見晴新道」との分岐付近、分岐から入って150mほどの区間が、今回、登山道整備を行う場所です。登山道に雨水が流れ込むことによって、大きく深く浸食されている一方で、分岐付近には土砂が流れ込んで堆積し、雨天時などには敷いてある木道が冠水してしまいます。

ツアー1日目は、山小屋に向かう途中、参加者全員で整備現場に立ち寄りました。尾瀬ガイドであり、「一般社団法人尾瀬登山道整備部」の一員である小林慎治さん、館山美和さんと共に、荒れた登山道の様子を確認し、翌日の整備作業に備えました。

9月の作業内容

見晴新道分岐付近の土砂を掘り出す 見晴新道分岐付近の土砂を掘り出す

9月に行われた1回目のツアーでは、この分岐付近の木道を冠水から守るために、周囲の土砂を掻き出し、水の流れを良くする作業を行いました。また、事前に申請して承諾を得ていた登山道脇の倒木を切り出し、水の流れを切ってこれ以上の浸食を防ぎつつ、大きく削れた箇所を埋め戻す作業を行いました。

雪の重みや強い風によって倒れたと見られる2本の倒木は、幹周りが20~40cmもあり、長さが10mほどありました。ここから枝を落とし、必要な長さを測って切り、整備場所まで運んで行きました。特にブナの倒木は硬く、3人交代で15分ほどかけてノコギリを引いてようやく切れるような大木でした。運び出すのもたいへんで、4mに切り出した幹は、山登り用のスリングをかけて男性が9人掛かりでも持ち上がらず、数十cmずつ引きずるように運んでいきました。

小林さん、館山さんの指示のもと、参加者全員で考えながら、歩きやすい階段状になるように太い幹を置く位置や向きを決め、合間にある溝を、太い枝、細い枝、大きめの石、中くらいの石、運んできた落ち葉や土砂、などの順番で埋め合わせていきます。

見晴新道分岐付近の土砂を掘り出す 見晴新道分岐付近の土砂を掘り出す

10月の作業内容

オオシラビソの倒木を切り出す オオシラビソの倒木を切り出す

10月に行われた2回目のツアーでは、1回目に整備した箇所から少し下の、さらに大きく深く削られている箇所を埋めていく作業を行いました。ここは溝が深く、底がぬかるむために、避けるように高いところを歩く人が多く、登山道が広がってしまっています。大きなブナの木の根を踏んで歩くため、元の場所を歩くように整備しなければブナの木も傷んでしまうかもしれません。

整備箇所の上部には、今春倒れたと思われるオオシラビソの倒木があり、2回目のツアーではこれを切り出して運び出しました。1回目で運んで来て余っていた倒木材も使い、ほかには登山道上に堆積した土砂や石、落ち葉、落枝を手分けして運び集め、使いました。

また2回目ツアーの作業日には、環境省檜枝岐自然保護官事務所、会津森林管理署、檜枝岐村観光課の方々も、ボランティアで参加いただき、一緒に整備作業を行いました。

オオシラビソの倒木を切り出すオオシラビソの倒木を切り出す

登山道上に堆積した土砂から石を掘り出す登山道上に堆積した土砂から石を掘り出す

作業終了。登山者の反応と達成感

たった一日の作業であっても、きれいに埋め合わせていくと、元の削れた登山道の形状がわからなくなるくらい、歩きやすく整備ができます。とはいえ、登山者がそのとおり歩いてくれるかはわかりません。作業の終盤には、実際に自分たちでも歩いてみながら、歩く人の心理で、どこを見て、どう歩いていくか、小林さん、館山さんが細かく観察し、調整を繰り返していきました。

午後になると燧ヶ岳から下山してくる登山者が通ります。作業を止めて登山道脇に立ち、登山者がどう歩いていくのかを、全員で見守ります。整備した通りに歩いて行くのを見届けると、歓声と拍手が起こりました。

小林さんが「今日はここまでにしましょう。みなさん、よく頑張りました」と発したところで、一日の作業が終了。整備した箇所を前に全員で記念撮影をして、山小屋に帰って行きました。

作業前の登山道 作業前の登山道。大きく深く浸食されている

作業後の登山道 作業後の登山道。枝、石、落ち葉、土砂などで整えられた

成果と今後の課題

今回、2回の登山道整備ツアーで、合計19名の参加者による約12時間の作業によって、20mほどの区間を整備できました。しかし、これは約3.2kmある燧ヶ岳「見晴新道」のほんの一部でしかありません。整備ができたように見える箇所も、次の雨や、この冬の雪の状況によって、変わってしまう可能性があり、決して完全な状態ではありません。

大切なことは、このような活動を繰り返し続けていくことでしょう。

今回、このツアーに参加してくださった方々が、登山道整備に携わった経験を活かして、ほかの山を歩くときにも登山道に優しく歩いたり、登山道整備に参加いただけたら、たいへん嬉しく思います。

ご参加いただいたみなさん、ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。

1回目参加者 整備箇所を前に1回目参加者で記念撮影

2回目参加者 三条の滝にて2回目参加者で記念撮影



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