テント泊をすることで夜と朝の尾瀬を満喫してみませんか。尾瀬には3ヶ所キャンプ場がありますが、今回は体力の負担が少ない尾瀬沼地区を選びました。尾瀬沼キャンプ場は沼山峠から3.3kmと比較的距離が短く高低差も100mほどと少なめ。これから山でテント泊を初めてみたい方にもピッタリの場所です。
今回は一泊二日のテント泊の様子をレポートします。
(8月21日取材)
テント泊の一番の魅力は「自然が近い」ことです。山小屋のような快適さは少なくなりますが、テントは生地を一枚隔ててすぐそこが尾瀬の自然。日が昇れば明るくなりますし、鳥の声や虫の音、風や草木の気配を隣りに感じ、「山の中で暮らす」という非日常の世界を味わえることが大変おもしろいです。
ザックはパッキングの仕方がとても大切です。荷物の入れ方で重さの感じ方が変わってきます。『基本は軽い荷物は下、重い荷物は上』。防寒具やシュラフなど軽いものを下に入れ、調理器具や食材、飲み物などは上に入れると背負いやすくなります。
沼山峠からオオシラビソを中心とした針葉樹林帯を登ります。尾瀬は湿原のイメージが強いですが、全体としては湿原の周りを2000m級の山々が囲む山岳地帯で、手つかずの深い森の美しさにも目を向けてほしいところ。うつむきがちな視線をちょっと変え、木々を見上げたり、足元のコケ類や植物の実を眺めたりすると無数の発見があります。ぜひ森の中にも注目しながら歩いてみてください。
尾瀬の夏は大変短くあっという間に過ぎ去ってしまいます。今年は特に気温が下がるのが早く、例年はお盆明けに終わる夏が今年は8月9日過ぎに終わり、湿原の色がほんのりと草紅葉に近づいてきました。秋の気配は湿原の色だけでなく、空の色や雲の様子、咲いている花や昆虫類からも感じられます。人もまばらで大変静か。ちょっぴりもの寂しい尾瀬になってきました。
尾瀬沼に着いたらまずはテントの設営へ。テントを張り重たい荷物を置いて身軽になりましょう。尾瀬沼キャンプ場の受付は尾瀬沼ヒュッテです。申込用紙を記入し支払いを済ませ、テントに付ける木札をもらってからテントサイトに移動します。尾瀬沼にはウッドデッキになったテントサイトが全部で28ヶ所あり、到着順で場所を選べます。早く到着すれば良い場所が選べますよ。受付は13時からで事前に予約が必要です。
尾瀬沼のテントサイトは板張りになっておりペグは刺さりません。備え付けてある石や、ウッドデッキの端に設置してある輪を利用して張り網を張りましょう。ウッドデッキは平坦で雨にも強く快適です。
山でのテント泊では食材や調理器具をぜんぶ担ぐ必要があり、あまり重たくなりすぎるのも考えもの。今回はコンビニで買える材料やフリーズドライなどを利用して簡単に調理できるものを選びました。コンビニおにぎりやサラダチキンなどはしっかり味がついていますので、調味料も不要のお手軽さです。また、テント泊では明るいうちに調理するのもポイント。日没前には調理から片付けまで済ませましょう。
日帰りでは体験することができない特別な世界。夕暮れの茜色に染まる尾瀬沼や、月が優しく照らす湿原でのナイトハイク、月が沈んだあとは満天の星々を観賞、朝は靄に包まれる湿原と尾瀬沼の散策。尾瀬に泊まるとアクティビティが目白押しです。
日没の前後30分は夕焼けタイムです。橙色から赤色に刻一刻と変化する夕日はいつまでも眺めていられます。
スカッと晴れ渡るよりも適度に雲があったほうが綺麗な夕焼けとなることが多いです。
※日没後は急に暗くなりますのでヘッドライトをご準備してお出かけください。
太陽が沈み始め、空の西側(写真右側)から橙色になっていきます。尾瀬沼に映り込む柔らかい光と映り込む景色が綺麗でした。太陽がまだ高い位置にいるので水面に光が映っています。
日没間際の西の空。橙色がだいぶ濃くなってきました。太陽は山並みの向こう側に隠れ水面への反射はなくなります。景鶴山(けいづるやま)の黒いシルエットがカッコいいです。
太陽が完全に沈むと空の色の赤みが一気に増してきます。
ちょっと禍々しく感じるほど空が赤く染まることもあります。暗くなりますので足元には十分お気をつけください。
太陽が沈み光の散乱仕方が変わることで空の色が青→橙→赤と変化していきます。太陽が沈む前は橙色。沈んだ後は赤になります。これは日が沈むにつれて太陽が通過する大気の距離が長くなり、可視光線の波長が短い青系が届かず、波長の長い赤系の光だけが届くからです。
元々は新月期に天の川狙いだった今回の取材。秋雨前線の影響でグズグズの天気が尾瀬でも続き、やっと晴れたらほぼ満月になっていました。正直、星といえば新月だと思いこんでいましたが今回は日程がズレたおかげで月夜の素晴らしさを再認識。明るい月が作り出す尾瀬の景色もまた素晴らしいものでした。
満月が照らす大江川のムーンロードと湿原から湧き上がる靄が幻想的な景色がとても印象的。月明かりと川の相性って抜群だったんですね。なかなか見られない夜の景色に心が揺さぶられました。
周囲に街灯などの明かりがなく真っ暗な尾瀬では月夜の明るさが強烈に感じます。目が慣れるとヘッドライトなしでも歩けるくらいです。ちょっと離れた距離にいる人や湿原の靄もぼんやりと見えています。
月の光で空は明るいですが。明るい星ははっきりと見えています。夜空もよく見ると色があり月夜の晩は深い藍色に空が染まっていました。
この日は深夜1時頃に月が沈むと空は一気に暗くなり月夜の晩から天の川タイムに大変身。月明かりに隠れていた星たちが一斉にまたたきだします。月の明るさでこんなにも夜の表情が変わるものなのですね。真夜中ですが、満点の星空にテンションが上がり眠気も吹っ飛んでしまいます。
尾瀬沼ヒュッテの屋根の上に輝く星団の「すばる(プレアデス星団)」肉眼では5-7個ほどしか見えない星の集まりですが、星の総数は100個とも200個とも言われています。空でひときわ目立つため、伝説や神話などにもよく登場し数々の名前を持ち、日本では六連星(むつらぼし)という素敵な名もあります。
夜の尾瀬沼地区はちょっと違った見え方です。星の世界に建物が迷い込んだように感じます。建物と星空もまた面白いですね。
空がうっすら白み始めると自然に目が覚めるのもテント泊のよいところ。太陽の明るさは天然の目覚ましですね。ちょうど大江湿原に靄がかかり幻想的な風景を楽しむことができました。スッキリ晴れていても、どんよりしていても、雨でも、尾瀬の朝は素敵な景色を見せてくれます。お泊りになられたらぜひ日の出の時刻に散歩してみてください。
※朝は冷え込みが厳しくダウンや手袋等の防寒具が必要になります。
朝靄は放射冷却によって引き起こされる自然現象です。夜間気温が下がると空気中の水蒸気が冷やされ地表付近に溜まっていきます。太陽があがり気温が上がっていくと溜まった水蒸気が靄に変身。水分が多い大江湿原の形に靄が溜まっているのが分かります。目で見て自然現象が分かるのは大変おもしろいものです。
自然に包まれた二日間。山小屋泊とまた違った尾瀬の素晴らしさを実感できました。24時間絶えず自然の様子を肌で感じ続けられるのはなかなか新鮮です。山小屋のような快適性はありませんが、不便をあえて楽しむことがテント泊を楽しむ秘訣のような気がします。山でのテント泊をしてみたい方はぜひ尾瀬沼でテントデビューしてみて下さい!
テント泊は決められた指定地で尾瀬沼(2021シーズンは10/23(土)まで)、
見晴(2021シーズンは10/24(日)まで)、山ノ鼻(2021シーズンは休業中)の3ヶ所以外のテント泊は禁止されています。
尾瀬のテント場では食器を洗うことができません。使用した食器はウェットティッシュなどで拭き取り家に持ち帰ってからしっかり洗いましょう。油汚れは熱湯をいれ、油を浮かしてから拭くとかなり綺麗になります。すすいだお湯は捨てる場所がないので、空いたペットボトルに入れるなどして持ち帰りましょう。
パスタを茹でたお湯や、ラーメンのスープなどは捨てることはできません。スープパスタにしたり、全部飲み切るよう薄味にしたりと工夫しましょう。献立を考えるときにあらかじめ残り汁が出ないよう考えておくのもポイントです。
尾瀬の中にはゴミ箱はありません。食材のゴミは臭いや水分が出ないようジップロックなどフタができる袋に入れて持ち帰りましょう。多めにゴミ袋を用意すると便利です。また動物が食べにきてしまう場合もありますので外にゴミを出しっぱなしにするのも厳禁です。