答え 原則として、労働者の同意なく出向や転籍をさせることはできません。 解説●出向と転籍 出向とは、雇用されている企業(出向元企業)に在籍したまま、他の企業(出向先企業)の従業員として、長期間にわたって出向先企業の業務に従事する人事異動を言います。在籍出向とも呼ばれます。 転籍とは、雇用されている企業(転籍元企業)との労働契約を終了させ、他の企業(転籍先企業)に籍を移して転籍先企業の業務に従事する人事異動を言います。 ●出向・転籍命令の要件 1.出向命令の要件 従業員に出向を命じるためには以下の2つの要件を満たす必要があるとされています。 (1)出向命令権が労働契約上認められること 「使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことはできない」とする民法の規定(同法第625条第1項)が出向にも適用されますので、使用者が出向を命じるためには、原則として、労働者の同意が必要です。 しかし、必ずしも労働者の個別の同意まで求められているわけではありません。裁判例では、就業規則や労働協約上に出向労働者の利益に配慮した詳細な規定(出向期間、出向中の地位、賃金、手当等)がある場合には、使用者は出向に同意しない労働者に対して出向を命じることができるとされています。 さらに、出向命令における労働者の同意について、就業規則や労働協約に基づく事前の包括的な同意でも足りるとされています。 ただし、事前の包括的な同意によって出向を命じるためには、以下の点について一定の配慮を行う必要があるとされています。 ア.密接な関連会社間の日常的な出向であること イ.出向先での賃金・労働条件、出向期間、復帰の仕方などが出向規程等によって労働者の利益に配慮して整備されていること ウ.当該職場で労働者が通常の人事異動の手段として受容できるものであること (2)出向命令が権利濫用にならないこと 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合でも、出向命令が、以下の3つの事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、その出向命令は無効とされます(労働契約法第14条)。 ア.業務上の必要性 イ.対象労働者の選定に係る事情 ウ.その他の事情(※) ※労働条件が大幅に下がる場合、復帰が予定されない場合、著しい生活上の不利益を与える場合などは、権利の濫用として無効となる可能性があります。 2.転籍命令の要件 転籍は、転籍元企業との労働契約を終了させ、転籍先企業との間で新たな労働契約を締結することになるため、転籍の都度、労働者の個別の同意が必要とされています。出向のように、事前の包括的な同意のみを根拠に転籍を命じることは原則としてできません。 判例〇新日本製鐵事件(最二小判平成15.4.18 労判847号) 〇リコー事件(東京地判平成25.11.12 労判1085号) 〇三和機材事件(東京地判平成7.12.25 労判689号) |