答え
弁明の機会を与えていないので、権利を濫用したものとして無効であると考えられます。
解説
1.懲戒処分とは
懲戒処分とは、労働者が企業秩序違反に当たる行為を行った場合に、使用者が労働者に対して行う制裁のことを言います。
2.懲戒処分の要件
使用者が労働者を懲戒処分するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
(1)懲戒処分の根拠規定の存在(労働基準法第89条、同法第106条)
使用者は、就業規則に懲戒の種別及び事由を規定し、その就業規則を労働者に周知させなければ、労働者を懲戒処分することはできません。判例では、就業規則に定めのない懲戒事由や種別では、使用者は労働者を懲戒処分できないとされています。懲戒事由や種別について法律の定めはなく、企業ごとに様々な種類があります。
ア 主な懲戒事由
・経歴詐称
・職務上の非違行為
・職場規律違反、不正行為
・企業外の行為
イ 主な懲戒の種別
・「けん責・戒告」:労働者の将来を戒める
・「減給」 :本来支払われるべき賃金から一定額を控除する
なお、減給は、1回の額が平均賃金の半分を超え、総額が一賃金支払期における
賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条)。
・「降格」 :労働者の役職や資格を懲罰として引き下げる
・「懲戒解雇」 :最も重い処分で、一般的に即時解雇され退職金も減額又は不支給になる
(2)懲戒事由への該当性
労働者の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当すると認められなければなりません。
3.懲戒処分の有効性の判断
労働契約法では、使用者が労働者を懲戒処分することができる場合において、当該懲戒処分が、労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とするとされております(同法第15条)。
学説・裁判例においては、懲戒事由に該当するだけでなく、以下のような観点からその有効性を判断されています。
(1)不さかのぼるの原則
違反行為が行われた後に新たに制定された就業規則の懲戒事由に基づき、懲戒処分をすることはできません。
(2)二重処分の禁止
同一の違反行為に対して二重に懲戒処分を行うことはできません。
(3)平等取扱い
同じ規定に同じ程度違反した行為に対しては、懲戒処分も同種・同程度でなければなりません。
(4)相当性
懲戒処分は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。不当に重い処分は、懲戒権の濫用として無効になります。
(5)適正手続
就業規則や労働協約上、労働組合との協議や懲戒委員会の討議を経るべきことが定められている場合は、その手続きを遵守しなければなりません。また、このような規定がない場合においても、原則として本人に弁明の機会を与えることが必要であると解されています。
参考
〇千代田学園事件(東京高判平成16.6.16 労判886号)
〇フジ興産事件(最二小平成15.10.10 労判861号)
〇ダイハツ工業事件(最二小昭和58.9.16 労判415号)
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