ふくしま住まい人 ~新しい生活を「ふくしまの家」ではじめた人々の物語~
出会いは町の空き家バンク
会社員時代、仕事で何度も東北を訪れていた森川さんは、55歳くらいからインターネットだけでなく、自分の目で現地を見ながら移住のための情報収集をしていました。「住むからには、雪も降雪量だけでなく、いつまで根雪が残るか等もちゃんと分かって住みたいですよね」。見晴らしのいい高台に建つ古民家との出会いは、空き家バンクでした。隣家から距離があり、近くに温泉があることを条件に絞り込んで行くと、南会津町の古民家がヒットしました。
ところがすでに交渉中の方がいて、一旦諦めたそうです。「ある時、友人から『また出てるよ』と連絡が入ったんです。見ると値段も5分の1くらいになっていたので、すぐ役場に見学を申し込んで購入しました」。
システムキッチンを入れた台所。 |
広々としたリビング・ダイニング。ダイニングテーブルと火鉢は手づくりです。 |
かなり後押ししてもらいました
福島県の補助金は、最大190万円交付される「空き家・ふるさと復興支援事業」を活用。工事に入る前にインターネットで調べたそうです。「古民家は、改修しないと住めるようになりません。補助金に後押ししてもらえて助かりました」。2017年2月に完了したリフォームは、どんな仕上がりになったのでしょう。「まず、お風呂はリフォームしませんでした」ときっぱり。南会津町では、「毎日温泉に行く」と決めていたのであえて手を入れなかったそうです。
また、「リビング・ダイニングは、もともと入っていた床暖房を撤去し、厚さ30ミリの杉のムク材を使ってフローリングにしました」とのこと。「中学時代の友達やバイク仲間、会社員時代の同僚や後輩が訪ねて来くるので、ここは広くしたいと思いました。ダイニングにあった台所は、玄関脇の小部屋に移動してシステムキッチンを入れています。リビング・ダイニングの北側には、寒冷地仕様の二重サッシも入れました」。
「開口部が大きいので、部屋の中から高菜やタマネギを植えた畑や雪景色も見えます」。思い返すと苦労したのは、工事中の打ち合わせだったそうです。南会津町の工務店に依頼したのですが、千葉から通いながらリフォームしたので仕上がり等、もう少し詳細に詰めておけばとよかったと思うところもあるそうです。これから移住を考えている方に「ひと言」とお願いすると「住みたいところに何度も通うことじゃないかな」と森川さん。「家の維持管理もあるしね。一年を通して分かっていくなかで、地元の人とも近くなっていくんじゃないかな」と話してくださいました。
古民家を住む人のセンスでアレンジ
「会津美里町の古民家は、インターネットの空き家バンクで見つけて役場に相談しました」。購入する際は、移住希望者を募る集いで出会った、会津の古民家や空き家関係のNPOの方のアドバイスも参考にしたそうです。「決め手はキレイだったこと。直前まで暮らしていた方が、とても丁寧に住んでいらして薪ストーブ付き。値引きもしていただけました。福島県の補助金もありがたかったです。経済的な負担を小さくすることができました」と聡子さん。
「改修工事は、古民家の雰囲気と断熱を重視。水まわりとリビング・ダイニングに絞り込んで手を入れました」。工務店を決める際は、2社に見積りを依頼したそうです。リフォームのセンスはホームページでチェック。「親切で丁寧そうな業者にしました。自分で手掛けたい部分もあったので、その辺を相談しながら値引き交渉もしました」と友紀さん。最終的に業者に依頼したのは、リビング・ダイニングの断熱と床張り、二重窓、土間の天井張りだったそうです。
「浴室と洗面所は、父と兄の手を借りながら自分で。漆喰壁の一部と床は、家族全員で塗りました」と友紀さん。ところが工事を始めてみると楽しいことより大変なことの方が多かったと苦笑い。「材料と工具を揃えても、施工の方法が分からないのでネットで調べるのですが限界もあって。特に浴室は、本当に大変でした。タイルとヒノキはWebで購入しました。成形の材料をカットした後、端材をきれいに仕上げるのも苦労しました。モルタルもそう。練り具合がよく分からなくて無料の動画サイトで調べたり、工務店の方に教えてもらったりして完成させました」。
洗面所とヒノキとタイルの浴室は、ご主人のDIY。 |
友紀さんお手製の丸窓が素敵なリビング。 |
まず1歩踏み出すこと
2019年4月、晴れてお子さんは小学校1年生に。「古民家との出会いは、タイミングとしか言いようがないです(笑)。決めたら一歩踏み出す。期限も大事。私たちは、長女の就学というゴールがあったので最後に猛ダッシュできました」と聡子さん。岩波さんのお宅では、間もなく土間の一角に天然酵母のパン工房が完成します。移住後も夢は、膨らみ続ける一方です。
喜多方市の補助金をダブルで活用
空き家を住めるようにするまで出口さんは、市役所から紹介された複数の補助金を活用。1つは、住宅購入と浄化槽埋設の費用で喜多方市の補助金を。もう1つは、ハウスクリーニングとリフォーム費用で、最大190万円の補助が受けられる福島県の『空き家・ふるさと復興支援事業』を活用。「やはり不動産は大きな買い物ですし、リフォーム費用もかかります。補助金はありがたかったです」。
キッチン、洗面所、トイレなの水まわりのリフォームは、引っ越す前に済ませておきたいと1カ月前からスタート。特にこだわったのがステンレスの業務用キッチンと台所の床です。「杉は柔らかいので、水に強くて堅いものにしたいと思い松のムク材にしました」。洗面台もおしゃれです。陶製のスクエアボウルを大小使い、トイレの手洗いと分離しています。こうしたデザインはどなたが?と尋ねると「図面は僕で、工事は妻の両親が紹介してくれた大工さんに依頼しました」と出口さん。工事中は、もっぱらスマートフォンやパソコンでやりとり。台所と廊下の床の色もサンプルデータをパソコンに送信してもらって決めたそうです。
後の洗面台はトイレの手洗いと別にしておしゃれな空間に。 |
奥様の希望で業務用キッチンを入れました。床材は堅牢な松です。 |
人の話を聞いてから決めてもいい
引っ越して丸1年。喜多方市での暮らしはいかがでしょう。「妻は、両親のそばで暮らせて安心と言っています。僕は、通勤がなくなり周りも静かで、仕事もはかどるんですけど、一方で畑もあるし、薪ストーブを買ったので薪割りもある。地域の草刈りもあるって感じで忙しいです(笑)」。移住を考えている方に住まい探しのアドバイスをお願いすると「じっくり探すことですかね」と出口さん。「僕は、直感で決めちゃった。それも一つの方法なんですけど、四季折々通って、近所の人の話を聞いてから決めても遅くはないんじゃないかと。僕の場合、欲を言えば畑がもう少しあってもよかったかな」。目下、週末の畑仕事が一番の気分転換とおっしゃる出口さんです。
俄然勇気が!!
新築に際しては、「来て ふくしま 住宅取得支援事業」を活用。Uターンの準備をしていた頃、東京で開かれている移住フェアで、山形出身の著名なシェフが話しをすると聞き出かけた勝子さん。「そこでいろんな補助金制度を知りました。わが家に当てはまる制度を教えていただき俄然勇気が湧いてきました」。振り返ると予算面で諦めようとした時、補助金を思い出し一歩踏み出せたことも安心で快適な家づくりにつながっていると勝子さん。「例えば、費用はかさみましたけど基礎工事がそうです。近くに川があることから高くしたんです。お蔭で台風による浸水を免れました。カフェのための業務用キッチンも私に合わせて設えることができました。夫が強く希望した土壁もそうです」。昔、塙町は土蔵の町だったことから新居もそんなイメージにしたいと思ったのだそうです。「ところが土壁を塗れる左官屋さんがいるかという話になりまして。やっと探し当てて仕上げていただきました。少しですけど地域の文化にも貢献できたんじゃないかと思っています」。
リビングは珪藻土の塗り壁、天井は梁と野地板を「あらわし」に。 |
週4日カフェになるリビングは土足Ok。コンサート会場になることも。 |
カフェに老若男女が集います
現在、勝子さんは週4日間だけオープンするカフェの店主として楽しい日々を送っています。「夫は、現役のカメラマンなので、撮影がある時だけ上京するというスタイルで暮らしています」。
40年ぶりに戻る故郷での生活を心配したこともあったそうですが、自分から心を開いていけば、ちゃんと受け止めてくれると分かったと勝子さん。最近では「集まれる場所を作ってくれてありがとう」と感謝されることが多くなったそうです。
占める割合から考えても大きいです
工事は、安田さんの知り合いの方が紹介してくれた工務店に依頼。「実は僕、転勤族で15年くらい前に郡山市に住んでいたんです。その時に知り合った方が、設備関係の仕事をしていまして。住む前に水道を分ける工事が必要だったので彼に相談して業者を決めました」。
プランは、建築士の資格を持つ安田さんが練ったそうです。「あれもこれもではなく、生活に必要な箇所に絞って改修しました」。
その中でもガラリと変更したのが水まわり。浴室は断熱浴槽のユニットバスに、キッチンは対面式に、トイレも新しくしてリビング・ダイニングの近くにまとめています。「使い勝手よくと思いまして、動線を短くしました」。リビング・ダイニングも、もともとは和室だったところに断熱材を入れて床をフローリングに、窓はペアガラスを入れています。「後は2階の寝室です。居心地よくと思って壁と床に断熱材を入れました。遊び心で梁は『あらわし』にしました」。当時、お住まいは札幌、工事は郡山と離れていましたが、心配はなかったのでしょうか。「1度見に来ました。イメージ通りでした」。補助金は、リフォーム工事費の2分の1とハウスクリーニングの合計で補助金の上限額までをいただいたとのこと。「上限額まで補助していただけたのは予想を超えていて、大変助かりました」。
たっぷりした広さがある居心地のよい寝室。 |
和室・廊下をリビング・ダイニングにリフォーム。 |
補助金も徹底的に調べることです
無事工事も終わり2016年11月、安田さんは郡山市に住民異動届を提出しました。移住から間もなく3年。暮らしにも慣れたと話します。「歩いて病院や買い物に行けますし、市内周遊バスは100円です。転勤でいろんな町で暮らしましたけど初乗りって大抵200円ですよ。近所に町会長さんと民生委員さんが住んでいるのも心強いです」。現在奥様は、お勤めしているそうですが、安田さんは悠々自適の生活。週末は、趣味の登山に出かけることもあるそうです。移住成功のポイントを伺うと「徹底的に調べることです」と安田さん。「誰も教えてくれないので、空き家情報にしても、補助金にしても、とにかく徹底的に調べることですね」と話してくださいました。
福島県の東京事務所も訪ねて書類を整えました
「購入時、きれいだったとは言え、震災を経験した住宅はあちらこちら傷んでたんです。住めるようにするまで2つの補助金を活用できたのは、とても助かったですね」。「『来てふくしま住宅取得支援事業』は不動産業者、『空き家・ふるさと復興支援事業』は役場からの情報です。東京でのイベントや福島県の東京事務所も訪ねて書類を整えました。『来てふくしま住宅取得支援事業』の補助では、保健師として働いているので雇用要件の地域活性化要件加算もありました」。
リフォームは、住宅を購入した不動産業者が必要な工事を各業者に発注する形で進めました。「当然、見積りも取って業者に依頼する部分、自分で手を加える部分という話し会いもしました。そうじゃないと金額だけ膨らんでしまいます。補助金申請用の写真を撮りながら不動産業者と自宅を見て回る中で、『ここも改修する必要がある』と気づいた箇所もありました。あの撮影がなかったら見落とすところでしたので、そういう意味でも補助金制度に助けられました」。
畳40枚の表替え。後日、近所に畳店があったことが分かり |
既存と同じ和瓦で屋根を修理。ベランダは、手すり壁に被せる笠木部分を新しいステンレスにして雨漏り対策。 |
工事は出来る限り足を運びました
2017年7月から8月にかけて行った工事は、雨漏りしていた屋根瓦の修理、1階廊下の雨漏りを防ぐための2階ベランダの防水、トイレ、浴室、1階奥の押し入れのカビ取り、40枚畳の表替えの計6カ所。当時、東京で忙しく働いていた星野さんでしたが、インターネットでやりとりするだけでなく、年休を取って進捗状況を見に来ていました。「任せっきりにしないで、できる範囲で精一杯やったので『こんなはずじゃなかった』ということがなく仕上がりました」。
移住して丸2年。星野さんは、飯舘村に訪問看護ステーションを立ち上げるべく、準備を進めています。事務所は、住宅とセットで購入した土蔵を自分で改装して使う予定とのこと。「空き家って期待通りのものはありません。与えられた条件に刺激されてイメージが膨らんで来るというか。どう活用して暮らしていくかに醍醐味があるように思います。私にとっての住まいは、資産ではなく人と関わるツール。これからもいろいろ手を加えていきたいと思っています」と話してくださいました。
リフォームで快適な住まいになりました
長年、埼玉県で塾の講師をしていた佐藤剛さんの夢は、故郷で小中高生のための塾を開くことでした。2018年春、いわき市内で不動産業を営む弟さんから「塾にぴったりの物件が見つかったよ」と連絡が入り佐藤さんは、タイミング的にも今がチャンスかもしれないと独立を決めたそうです。弟さんには、自身の住まいも紹介してもらったそうです。「経費節約で、どんな家でも我慢しながら住もうと思っていました」と佐藤さん。
ところが、訪ねてみるとやはり人が住んでいなかった空き家は、台所も浴室もかなり傷んでおり、広縁の床はいつ抜けてもおかしくない状況。不便は覚悟の上、リフォームは仕事が軌道に乗ってからと考えていた佐藤さんですが、それでも浴室は、直そうと知り合いの工務店に相談に行ったそうです。すると、その場で移住関係の「空き家・ふるさと復興支援事業」の話になったそうです。「埼玉からいわき市に来るんだから条件に合うんじゃないかということになりまして。弟も『該当するかもしれない』というので、早速、県の合同庁舎に出かけました」申請の仕方を教えてもらい書類を提出するとスムーズに決定されたそうです。「審査が通った時は、素直にうれしかったです」。
以前の浴室を快適なユニットバスにしました。疲れも吹き飛びます。 |
2階和室の砂壁と天井を張り替えました。 |
今は仕事もプライベートも充実
リフォームプランは、工務店と相談しながら決めました。「お願いした工務店さんがとてもいい方で、始まる前に住宅全体を見てくださったんです」。佐藤さんの希望と最低限必要な修繕も含めて工務店の責任者と相談しながら台所、浴室、1階和室の畳替えと広縁の床の張り替え等のプランを決めたそうです。
2019年1月、工事がスタートすると佐藤さんは、いわき市内小名浜の団地で始めた塾に寝袋を持ち込み、いわき市内平の自宅まで通い続けました。「工事中は、大工さんともよく話しをしました。職人さんって無口だったりしますけど、みなさん気さくで人に恵まれました」。迷ったのは、2階和室の天井と壁でした。「どうしたものかと悩みましたが、やっぱりやってよかったです。砂壁にボードを打ち付けクロスを張ったので、壁からポロポロ落ちてくる砂を掃除するわずらわしさがなくなりました」。日当たりもいい2階の和室は、ゲストルームとしても使えるようになったとのこと。
キッチンやユニットバス、広縁の床の色等は、カタログを見て決めました。苦労したのは、設備機器のサイズです。「昔の家って多少つくりが小さいんですよね。シンクもユニットバスも工務店さんが、うちに合うサイズを見つけて来てくれました」。水まわりが快適だと気分も上がると佐藤さん。「古い家でしたが、工務店さんの確かな目でチェックしてもらったので安心して住めるようになりました。補助金のお蔭です。リフォーム工事費の2分の1とハウスクリーニングの合計で補助金の上限額まで補助していただけました。本当に助かりました」。ふるさとに戻ってきてはみたものの住まいが…という心配もなくなり、今はプライベートも仕事も充実しているそうです。
土地は桑折町を訪ねて決めました
新居は、ライフスタイルに合う自由設計にし、仙台市内のモデルハウスを巡ってはデザインや性能、坪単価等を検討。「私が訪ねたハウスメーカーの性能は、どこも遜色ない感じ。ならば外観やインテリアに夢を持っていた妻の願いを叶えようと思って、デザイン等の自由度が高い全国展開のメーカーにしました」。プランニングは、仙台支店で進めたそうです。担当者が打てば響く方で、思った通りの図面が出来上がってきました。「それでも後からこうしたいと思うことが出てくるんですよね。下がり壁をアーチ壁にしたりとか、何度も微調整をして仕上げました。雰囲気を3Dで見ることができたのでイメージがつかめてよかったです」。
土地は、インターネットで検索した後、地元の不動産業者を訪問。「これからインターネットに出す予定という土地を何件か見せていただき、町のハザードマップと照らし合わせて決めました」。
すでにハウスメーカーが決まっていたので、土地を購入してからは展開が早かったそうです。施工は、ハウスメーカーの仙台支店と福島支店の担当者同士でやり取りしながら進めたそうで、工期は約3カ月。「2週間に1度くらいのペースで現場に来てました」と豊さん。
2017年11月、完成した新居の妻飾りや窓枠の飾り、照明器具、カーテン、ロートアイアンを使ったカーテンレール、壁紙等は、すべて奥様のコーディネート。「家づくりは一生に一度。後悔しないように、納得行くまで選べたので満足しています」と新菜さん。
キッチンの脇に設えたアーチ壁。曲線が空間を優しい雰囲気にしています。 |
カーテン、カーテンレール、シャンデリア、ペンダントライトも吟味して設えました。 |
要件加算にも該当しました
県の「来てふくしま住宅取得支援事業」は、桑折町に移住を決めた豊さんが町役場の担当者と話をする中で紹介されました。「願ってもない話で。町の補助金と県の補助金、さらに年齢要件による地域活性化要件加算もいただけたので、我慢しない家づくりができました」。迷っていた太陽光発電システムも搭載できたこともよかったと豊さん。
移住を考えている方にアドバイスをお願いすると「この町に住みたいと思ったら、インターネットで調べるだけでなく、積極的に現地に出かけることをおすすめしたい」と話してくださいました。「補助金も土地も『これから出ます』というタイミングで教えていただけたのは、その場にいたからこそ。出向くと情報量が増えて選択肢も広がるので、ぜひ足を運んでください」。12月は、庭のもみの木でイルミネーションを楽しむという大山さんご一家。実家にも近いので安心ですね。