ラウンド農ふくしまWeb-センター通信(試験研究・業務)-
令和4年度 試験研究・業務の紹介
農場管理課のしごと
農場の仕事というと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?水田や畑の耕うん、草刈り、田植え、稲刈り、ガラス温室やビニールハウス内での野菜や花の収穫・・・。農場管理課では、水田、畑、果樹園、温室やビニールハウスでの農作物生産に必要な業務全般に加えて、施設や農業機械の補修・整備、試験研究の調査、種子生産などを行っています。
ほ場(※1)では、試験研究の精度を保つための正確な管理が必要になります。このため、各ほ場の特徴を熟知した上で、試験内容について研究員と綿密な打合せをしながら業務を行っています。水稲、麦、大豆、園芸作物の種苗の生産では、品種ごとの特徴を見極めながら、純度を保つための細やかな管理が必要になります。
ここ数年、ベテランの農場管理員が退職を迎えるため、若い管理員が多くなっています。試験研究や種子生産を安定的に継続するために、機械操作や技術の継承を行いながら適切な農場管理に努めています。
(※1)農作物を栽培するための場所のことをほ場といいます。水田や畑、果樹園、牧草地などの農地の総称です。
イチゴの定植 試験田の田植え
水稲原種(※2)の収穫 果樹のせん定
(※2)栽培用の種子になる元の種子のことを原種といいます。
経営・農作業科のしごと
経営・農作業科では、農業の経営手法の開発や、新技術の経済性評価(※)、労働の負担や疲労を軽減するための農業機械やロボットの開発・改良、農業用水利施設の管理方法、農地の排水技術に関する研究をしています。現在の主な研究テーマは、水稲や野菜の生産現場で導入が進むスマート農業技術の開発と、その経済性評価です。
具体的には、キュウリ栽培の管理作業の省力化が期待される新技術の経済性評価、収穫に適した大きさのブロッコリーのみを自動で選択し収穫する機械の性能評価、中山間地で多く見られる法面の除草作業の負担や疲労を軽減する技術などを研究しています。
(※)技術の効果とその技術導入に必要な費用(コスト)について分析し、現在の技術と比較することを経済性評価といいます。
経営管理システムでの労働時間の調査 機械でのブロッコリーの収穫試験 ラジコン草刈機での法面の除草試験
流通加工科のしごと
流通加工科は、その名のとおり、農産物の流通や加工に関する研究に取り組んでいます。
農産物が収穫を迎える秋は、大忙し!最近は収穫された梨やエゴマ、ブロッコリー、柿の加工試験や成分の分析を連日行っています。
中でも柿については、福島県の冬の風物詩である「あんぽ柿」の研究を行っています。昨年度は、色鮮やかで糖度の高いあんぽ柿製造につながる収穫時の柿の色がどのような色であるかを明らかにしました。今年度も、引き続き品質の高いあんぽ柿を安定して作るための技術を研究しています。
柿をロープに挟む「連作り」の作業 干し場で柿を乾燥中
作物保護科のしごと
作物保護科では、稲、野菜、花などの農作物を病害虫から守る方法を研究しています。
稲では、穂が枯れて米が実らなくなる、「いもち病(写真1)」という病気に対する新しい薬剤の効果を調べています。また、お米の表面に褐色や白色の斑点を付けるカメムシ(写真2)について、被害が出る危険性を予測し、地域のカメムシ被害ハザードマップを作る研究をしています。
野菜では、トマトで株が枯れてしまう「かいよう病」という病気がどこから入ってくるのか、害虫のコナジラミ類(写真3 オンシツコナジラミ)に現在使われている薬剤が効かなくなっていないかなどを調べています。
写真1 いもち病に感染して穂が枯れた稲 写真2 クモヘリカメムシ 写真3 オンシツコナジラミ
浜地域研究所作物担当のしごと
こんにちは。浜地域研究所の採用1年目の研究員です。私は、浜通りで良く育つ、稲、麦、大豆の品種を調べています。
今は、黄金の穂が垂れ下がり、稲の収穫作業を行っています。収穫前には生育を調査し、それから鎌で丁寧に刈り取ります。扱い慣れない鎌での作業に奮闘しています。約30種類の稲を育てており、収穫作業は10月初旬まで続きます。
収穫した稲は、収量や品質を調査し、それぞれの特性を比較します。収量が多く、品質の良い、浜通りに適した稲の選定を目指して、調査しています。
稲作科のしごと
稲作科では、農家の皆さんが毎年購入している水稲種子の元となる種子(原種と呼びます)生産と水稲栽培の試験研究を行っています。種子生産では、品種の純度を維持するため細やかな管理を行っています。試験研究では、水稲の作柄調査(内容は当センターのホームページにて公開)、県内の栽培に適した品種(奨励品種と呼びます)を選ぶ試験、新しく開発される除草剤の効果確認、美味しいお米を生産するための栽培法、労力の軽減が期待される直播栽培などの試験を行っています。
これらのしごとの成果が、実りの秋と農家の皆さんの笑顔につながることを想いながら、職員は今日も田んぼで泥だらけになっています。
種子生産ほ場にて生育が異なる 県内の栽培に適した良質・良食味の 代かきと同時に素籾をまく
稲株を除去する作業の様子 品種(奨励品種)を選定します 新しい栽培方法の実証
花き科のしごと
花き科では、キク、トルコギキョウ、リンドウなど、福島県内で生産されている主要な花き類について、品質や収量の向上、コスト低減、気候変動に対応するための技術など、様々なテーマの試験を進めています。
研究員は、畑やハウスで花を育て、定期的な生育調査や収穫した花の調査を行っています。夏場は暑さが厳しいですが、花の盛りの時期でもあるので、忙しくも花の癒やしを感じながら研究を行っています。
鉢物カーネーションの省エネ栽培技術開発への取組(本部花き科)
鉢物カーネーションは需要期である「母の日」に向けて出荷されるため、冬から春にかけて栽培が行われています。「母の日」までに確実に花を咲かせるためには暖房が不可欠ですが、近年は燃油価格の高騰により農家の暖房費負担が増加しており、暖房費を節約できる栽培技術の開発が求められています。
そこで、作物園芸部花き科では、電照栽培(※)を活用した鉢物カーネーションの省エネ栽培技術の開発について取り組んでいます。
カーネーションは昼の時間が長くなると開花が早まる性質を持っています。その性質を利用し、電照栽培の技術を上手に活用することで、冬期間の暖房温度を下げても開花を遅らせることなく、需要期である母の日までに開花させることができます。
これまでの試験の結果、電照栽培により開花を早められることは確認されましたが、一方で、茎が間伸びしてしまい商品価値が下がるという問題があり、適切な電照期間等の検討が必要となっています。課題解決に向け今後も継続して試験を実施し、生産者の経営安定・発展に貢献できる技術開発に取り組みます。
(※) 夜間に一定時間カーネーションを照明で照らしてカーネーションに昼が長くなったと感じさせ、花を早く咲かせる栽培方法を電照栽培といいます。
写真1 温度を下げても電照により開花を早めることができることを確認(R4年4月29日撮影)
写真2 鉢物カーネーション栽培試験の様子(R4年4月29日撮影)
環境・作物栄養科のしごと
環境・作物栄養科では、環境負荷軽減技術、土づくり・施肥管理技術、放射性物質の吸収抑制技術などの研究をしています。最近では、地球温暖化やマイクロプラスチックの問題に関心が高まり、国の「みどりの食料システム戦略」の中でも施策目標となっています。そこで、当科では水田における温室効果ガス(メタンガス)発生の抑制技術や緩効性肥料に使用されるプラスチックを減らすための試験を行っています。また、水稲や果樹などの作物における効率的な施肥管理技術の開発に取り組んでいます。これからも生産性向上とともに環境にやさしい農業を目指していきます。