会津坂下農業普及所管内の農業
1 はじめに
「農」は国の礎なりといいますが、これを守り育てるために国は農業改良助長法(S23~)を定め、県と協同しながら「協同農業普及事業」を展開してきました。「協同農業普及事業」の理念は、農業を通じて農家が栄えること、農村が豊かになることであり、県内には現在7つの農林事務所に14の農業普及機関が設置され、普及指導員という国家資格者を配置して、協同農業普及事業を柱に農業農村の振興にかかわる様々な事業の推進に当たっています。
会津坂下農業普及所は、会津農林事務所に属し、河沼郡(会津坂下町、湯川村、柳津町)及び大沼郡(会津美里町、三島町)の5町村を12名が、大沼郡金山町と昭和村に金山普及所(駐在所)を設置し2名の職員が、合計14名が連携して業務に当たっています。
会津坂下地域は、古来より“極上の会津米”産地の一躍を担うとともに、会津美里町には400haを超える全国有数の水稲湛水直播栽培団地が広がる稲作地帯ですが、近年はきゅうりやトマト等の野菜の振興も盛んです。また、金山普及所管内は豪雪地帯で地理的にも条件不利地域ですが、昭和村の宿根カスミソウや金山町の“金山赤カボチャ”など特色を生かした農業が営まれ、特に宿根カスミソウは夏場の日本を代表する産地として有名です。
こうした豊かな農村を守るため、私たちは「ひとづくり」「ものづくり」「地域づくり」の3つの視点から課題を整理し、農業の普及指導員として、市町村やJAはもとより農業に関係するあらゆる団体の皆様を始め農業者の方々と協力をしながら現地活動を展開しております。
コロナ渦が続く昨今ではありますが、“現地で活躍する農業の普及指導員”として、今後とも努力して参りますので、気軽にお声がけください。
2 管内の概況
農家 ※1
令和2年の会津坂下農業普及所管内の総農家数は4073戸で、福島県の総農家数における割合は約6.5%となっています。平成27年(4993戸)と比較すると920戸減少しています。
個人経営体における主業農家の割合は、会津坂下普及所管内で21%となっており、福島県(18%)を上回っています。
普及所管内(H27) | 普及所管内(R2) | 福島県(R2) | |
---|---|---|---|
総農家 | 4,993 | 4,073 | 62,673 |
個人経営体 | - | 2,595 | 41,671 |
主業農家 | - | 543 | 7,331 |
準主業農家 | - | 392 | 7,376 |
副業的農家 | - | 1,660 | 26,964 |
※主業農家:農業所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家
準主業農家:農外所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家
副業的農家:65歳未満の農業従事60日以上の者がいない農家
耕地面積 ※1
会津坂下農業普及所管内の経営耕地面積における水田の割合は86%で、福島県の割合(79%)を上回っています。
普及所管内 | 福島県 | |
---|---|---|
経営耕地面積計 | 8,478 | 95,246 |
水田 | 7,301 | 75,050 |
畑 | 960 | 15,920 |
樹園地 | 216 | 4,277 |
会津坂下農業普及所管内の農業経営体における経営耕地面積が1ha未満の経営体の割合は28%で福島県の割合(42%)を下回っています。一方、経営耕地面積が大きい経営体の割合は坂下普及所管内が福島県を上回っています。
普及所管内 | 福島県 | |
---|---|---|
経営体数計 | 2,682 | 42,598 |
経営耕地なし | 33 | 1,041 |
1ha未満 | 756 | 17,718 |
1~5ha | 1,529 | 20,316 |
5~10ha | 234 | 1,250 |
10ha以上 | 130 | 1,250 |
農産物の生産状況 ※2
令和2年度の主な農産物の作付状況は、水稲7,007ha、きゅうり19.6ha、トマト6.4ha、ミニトマト1.4ha、アスパラガス25.1ha、さやいんげん7.5ha、宿根カスミソウ31.7haとなっています。販売金額は、きゅうり5億8千万円、トマト1億7千万円、ミニトマト2千万円、アスパラガス1億1千万円、さやいんげん9千万円、宿根カスミソウ5億円となっています。
※1 出典は農林業センサス
※2 会津坂下農業普及所調べ
3 普及活動の紹介
作物
会津坂下農業普及所管内の水稲栽培面積は7,007ha(令和2年)で、会津米の中心的産地となっています。
特に会津産コシヒカリは、平成8年産から15年連続で食味ランキング「特A」でした。しかし、平成24年産で「A」に降格したため、基本的な栽培技術を改めて徹底し、平成25年産で「特A」に返り咲き、その後も8年連続で獲得しています。今後も日本有数の米産地として「特A」に継続して位置づけられることが重要です。
令和2年度、福島県オリジナル品種「福、笑い」が管内で作付けされました。当品種は柔らかで粘りのある食感と強い甘みを持ち、高品質・高価格のブランド化戦略が進められており、近年価格が低迷している福島産米の牽引役として期待されています。また平成29年度から、新たな福島県オリジナル品種「里山のつぶ」の栽培が本格的に開始され、当管内では中山間地で作付されています。
会津坂下農業普及所管内の水稲直播栽培面積は約400haで、会津美里町(旧会津高田町)には200haを超える日本一の水稲直播団地が広がっています。また、同地域の寺崎地区では、「ふくしまからはじめよう。攻めの農業技術革新事業」を活用して、可変施肥直播機と播種同時除草剤散布(カルパー直播用初期除草剤)を組み合わせた日本で初めての実証試験を行いました。
会津坂下町 | 湯川村 | 柳津町 | 三島町 | 金山町 | 昭和村 | 会津美里町 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
水稲面積 | 2,590 | 957 | 291 | 42 | 109 | 159 | 2,860 |
野菜
管内ではきゅうり、トマト、ミニトマト、さやいんげん、アスパラガスが主要5品目であり、これらの販売総額は令和2年度の実績で、およそ9億7千万円となっています。これらの生産振興については「園芸振興プロジェクト」に基づき、揺るぎない産地づくりを進めるため、生産性の向上とともに、一層のコスト低減、省力化を図っています。また、補助事業等を活用したパイプハウスや簡易養液土耕システム等の推進とともに、土壌改善に取り組んでいます。
品目ごとでは、きゅうりは、補助事業等を活用した施設導入推進と土壌改善、トマトは、高温対策と簡易養液土耕システム等の推進、ミニトマトは、高温対策、規模拡大と簡易養液土耕システム等の推進、さやいんげんは、高温対策や土壌改善、アスパラガスは、パイプハウスと福島県オリジナル品種「ふくきたる」の推進を行っています。
そのほかの品目についても、JA指導会の支援、産直事業会員や直売所等への指導会の支援を通じて、管内の野菜生産振興を図っています。
現地指導会の様子
花き
宿根カスミソウは、昭和村を中心とした奥会津の基幹品目になっており、関係機関と密に連携して支援しています。奥会津以外でも栽培が盛んになってきていることから、「園芸振興プロジェクト」の主要品目に位置づけ、町村やJA、種苗会社等と連携し、自動かん水システムの導入等、生産性の向上に直結した技術支援、染め加工による新たな販売需要の創出や各種商談会への参加など、販売対策の強化に努めています。また、新規就農者育成のため、花育や「かすみの学校」開催などを通して次代の花き経営者育成に努めています。特に「かすみの学校」は、新規就農者受入のための先進的な取組として、内外から高く評価されています。宿根カスミソウ令和2年度の販売実績では、5億円となりました。
宿根カスミソウ以外の花きでは、会津平坦部の大規模稲作経営等において、トルコギキョウ、ヒマワリ、ハイブリッド・スターチス、ストック等の洋花をパイプハウスで栽培し、複合経営中心に花き生産を展開しています。また当管内は、8月盆、9月彼岸の需要期を狙った、県内でも少ない輪ギクの産地です。キクは需要期出荷が重要となるため、キクの開花調節技術の導入、適正施肥、病害虫防除等の適切な栽培管理支援を、JAキク部会および洋花部会と連携して進めています。
目揃い会で高品質基準を確認
果樹
果樹では、定期的な現地講習会の開催や、栽培管理や病害虫防除等の技術情報の提供により、適正な栽培管理による生産の安定を図っています。
リンゴでは近年、普通系ふじの秀品率の低下や雪害による老木の被害が見られます。このため、新改植による園地の若返りと優良系の品種導入により、果実品質の向上と農家所得の向上を図っています。また、若手生産者等の栽培技術の習得・向上に力を入れています。
会津身不知柿では、東日本大震災の影響で中断していた海外輸出が、平成28年度から再開しました。海外でも品質は評価されており、今後とも輸出は継続する計画で、着色や貯蔵性等も含めて一層の品質向上が求められています。このため、共同選果場利用による省力化を図り、既存の園地を維持するともに、栽培技術平準化による果実品質の向上を目指しています。
さらに近年、モモ・ブドウの栽培面積が増加してきており、会津坂下農業普及所管内の基幹品目に成長することが期待されています。
リンゴの高接ぎ講習
畜産
畜産では、和牛繁殖雌牛の増頭と会津地鶏の生産振興を重点的に支援しています。
和牛及び酪農等の牛飼養農家に対して、関係機関と連携して定期的に飼養状況調査を実施し、出荷牛の安全性確保に努めるとともに、畜産クラスター協議会の各種事業の推進や個別巡回をとおして和牛繁殖雌牛増頭のための支援を行っています。
会津地鶏は、肉用及び採卵用として飼養され、優れた品質が高く評価されています。採卵用飼養農家に対しては、飼料米等の地域資源を活用した飼料自給率向上の取組を支援するとともに、飼養管理技術向上に向けた技術支援を行っています。肉用飼養農家に対しては、会津家畜保健衛生所を中心とした農場HACCP(ハサップ)認証取得をとおして経営管理等の支援を行っています。
飼料作物については、放射性物質モニタリング検査を実施し、安全性の確保に努めると共に、農業技術情報を提供しています。一部では、耕種農家と畜産農家が連携した稲WCSの生産が行われています。
飼料米のサイレージ調整作業 会津地鶏の飼養管理状況
会津坂下農業普及所の所在地