原子力災害
原子力発電所の事故と原子力防災
原子力発電所では、燃料の低濃縮ウラン(ウラン235を3~5パーセント程度まで濃縮したもの)の核分裂をコントロールし、核分裂のときに発生する熱エネルギーを取り出して発電しています。
核分裂が起こると、放射線が放出されるとともに、燃料の中に発生した放射性物質がたまります。この放射線や放射性物質は外部に放出されると人体への影響が考えられるため、原子力発電所では、これらが外部に出ないよう「五重の防壁」により閉じ込めています。
また、原子力発電所の安全確保にあたっては、「多重防護」の考え方が適用されており、まず「異常の発生を未然に防止するための対策」が、さらに、仮に異常が発生したとしても「事故への拡大を防止するための対策」が、そして念には念を入れるため「放射性物質が施設の外に漏れないようにする対策」が多重的に講じられています。
一方、原子力発電所の立地の際には、現実には起こるとは考えられないような事故の発生を仮定した場合であっても、周辺住民の安全を確保できるかどうか、十分な広さの敷地がとってあるかどうかが確認されています。
このように、原子力発電所の設置・運転にあたっては、国による厳正な審査と厳重な監督がなされていることに加え、事業者の自主的な保安活動等が行われていることから、我が国の原子力発電所では、技術的な安全性の見地から原子力災害が起こる可能性は低いものとなっています。
しかしながら、事故の発生の可能性は否定できないとの安全対策とは異なる認識のもとに、万一、原子力発電所から大量の放射性物質が放出されることにより被害が生じた場合の備えとして、防災活動をより円滑に実施するため、国、県、市町村、事業者、防災関係機関等はあらかじめ原子力災害に特有な対策を講じています。
原子力発電所の事故のレベルと原子力災害
事故による影響の度合いを考慮する際には、国際原子力機関(IAEA)の国際原子力事象評価尺度(INES)が参考となります。INESには、程度の低いほうからレベル0から7までの8段階があり、放射性物質の施設内外への放出の度合い、安全上重要な設備の損傷の度合い等によってレベルが決定されています。
国際原子力事象評価尺度(INES)と評価例レベル | 評価例 | ||
事故 | 7 | 深刻な事故 | ・チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年、旧ソ連) |
6 | 大事故 | ||
5 | 所外へのリスクを伴う事故 | ・スリーマイル島原子力発電所事故(1979年、米国) | |
4 | 所外への大きなリスクを伴わない事故 | ・JCOウラン加工工場臨界事故(1999年、茨城県) | |
異常な事象 | 3 | 重大な異常事象 | ・旧動燃アスファルト固化処理施設火災爆発事故(1997年、茨城県) |
2 | 異常事象 | ・美浜発電所2号炉蒸気発生器伝熱管損傷事故(1991年、福井県) ・福島第一原子力発電所3号機主蒸気隔離弁の不具合による原子炉自動停止(1990年、福島県) ・福島第二原子力発電所3号機原子炉再循環ポンプ(B)の損傷(1989年、福島県) | |
1 | 逸脱 | ・高速増殖炉もんじゅナトリウム漏えい(1995年、福井県) ・福島第一原子力発電所2号機原子炉水位低による原子炉自動停止(1992年、福島県) | |
尺度以下 | 0 | 尺度以下 | |
評価対象外 |
我が国における最大の事故は、レベル4のJCOウラン加工工場臨界事故となっておりますが、原子力発電所としては美浜発電所2号炉蒸気発生器伝熱管損傷事故等のレベル2となっています。
海外の事故例を見ると、最大はレベル7の旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故であり、それに続くのはレベル5の米国スリーマイル島(TMI)原子力発電所事故となっています。
チェルノブイリ原子力発電所事故については、原子力安全委員会の検討の結果、この事故は日本の原子炉とは安全設計の思想が異なり、固有の安全性が十分でなかった原子力発電所で発生した事故であることから、我が国でこれと同様の事態になることは極めて考え難いとの結論が出されています。
このため、我が国においては、日本の原子炉と同様の炉型で起きた最大の事故であるTMI事故を参考として、原子力発電所の防災対策が検討されています。
原子力災害の特殊性
原子力発電所の事故による災害は、地震、水害などの自然災害とは異なり、その発生や被害の程度等において、次のような特殊性があります。
- 放射線は目に見えず、臭いもなく、いわゆる人間の五感に感ずることができない。
- 放射線が人間に与える影響は、出血や痛みがなく、被害の程度が自ら判断できない。
- 身の安全を守るためには、放射線等に関する概略的な知識を必要とする。
- 地震などの災害と異なり、災害応急対策を実施するまでの時間的余裕がある。
原子力災害に適切に対処するには、放射線や原子力防災に関する正しい知識を持ち、万が一緊急事態が発生した場合には、県や市町村などの指示に基づき、沈着・冷静に行動することが極めて大切です。